loading...

電通報ビジネスにもっとアイデアを。

商機を捉えるビッグデータ活用法No.2

クルマはインフラになる?
モビリティサービスとWeb3時代におけるデータのゆくえ

2025/06/03

岸本氏と高松氏

自動車産業の「デジタル化/サービス化」が進む現在。Toyota Blockchain Labにはどんな未来が見えているのでしょうか?

Toyota Blockchain Labが発表したテックペーパー「How to Introduce Mobility into the Public Blockchain」(モビリティをパブリックブロックチェーンに登場させるには?)は、自動車産業のみならず、さまざまな業界の注目を集めました。

このテックペーパーの発表を契機として行われた本対談では、Toyota Blockchain Labの岸本隆平氏をゲストに招き、自動車産業の未来と、Web3およびブロックチェーンがもたらす変革について、電通データマーケティング局の高松慎太郎がお話を伺いました。

<目次>
車は「個人の所有物」から社会の「公共財」へ

日本でのユーザーデータの管理は「ハイブリッド型」へ

Web3は社会や信頼のあり方を再定義するのか?

車は「個人の所有物」から社会の「公共財」へ

高松:電通データマーケティング局の高松です。本日は、モビリティサービスとデータの取り扱いについて、Web3の考え方を交えて、Toyota Blockchain Labの岸本さんにお話を伺います。
  
岸本:よろしくお願いします。Toyota Blockchain Lab(以下、TBL)は2019年にトヨタグループにおけるブロックチェーン活用の推進、知見の共有を目的として設立されたグループ横断のバーチャル組織です。当初はサプライチェーンにおけるデータのトレーサビリティを主なユースケースとしてきましたが、最近ではパブリックブロックチェーンの技術・ユースケースの進展にあわせて、Web3と呼ばれている領域にも積極的に取り組んでいます。
 
高松:TBLさんはテックペーパーを発信されるなど、Web3領域において精力的に取り組まれている印象を受けます。なぜこの領域に取り組まれているのか、お聞かせください。

岸本:私たちはこれまで自動車を大量生産し、販売する、いわゆる規模の経済に沿って成長してきました。これからはモノを売るだけではなく、サービス化の考え方が特に重要になってきており、クルマを「所有する」という従来の概念から、シェアリングや配車など、モビリティを「サービスとして利用する」方向へと徐々に移行しています。

高松:サービス化、つまりモビリティは個人個人の物理的な所有物ではなく、共有サービスとしての役割を果たすようになっていくということですね。具体的にはどのような形で進んでいるのでしょうか?
 
岸本:現在すでに、カーシェアリングやライドヘイリングといった形で、多くの企業がクルマを「共用」するサービスを提供するようになっています。つまりクルマは「モビリティサービス」として機能しています。

加えて、これから自動運転の技術が進化していくと、クルマそのものが社会全体で共有される「移動インフラ」にシフトする可能性が出てきます。つまり、自動運転車がネットワーク化され、活用されるようになるということです。

高松:人の運転が不要な自動運転車が、純粋に「移動手段」としてのみ利用される、そういう時代が徐々に近づいて来ているように感じます。
 
岸本:そうですね。車は移動のためのインフラとして、誰でも必要な時に、今より容易に利用できるようになるでしょう。ただ、これはあくまで自動運転が極まって行き着いた先のことではあり、しばらくは過渡期として、「個人が所有する車」と「社会で共有される車」というあり方が共存していくはずです。
 
高松:そこは段階的に変化していくという認識ができました。将来的に自動運転車がサービス化し極まっていくと、社会全体で共有されるようになるのではないかというお話ですが、そうして車がある種「公共財」として扱われるようになれば、車の個人所有という概念自体が消えていくのでしょうか?
 
岸本:大きな方向性としてはそうなると思いますが、クルマがインフラ化した社会でも、富裕層や自動車ファンは引き続き趣味として、個人所有の車を楽しむのではないでしょうか。私たちとしては、「運転する楽しみ」や「車を保有する喜び」を持つ人たちと共存しながら、モビリティサービスの多様化に注力していければと思っています。

日本でのユーザーデータの管理は「ハイブリッド型」へ

高松:非常に興味深いです。ここからは少しWeb3っぽい話ですが、そうしたサービス化が進んでいく中で取得されるユーザーデータの管理、運用について伺います。

現在、自動車に限らず、あらゆるものがデジタル化し、ネットにつながる中で、さまざまな接点で莫大なユーザーデータが取得できるようになっています。ユーザーデータの利用方法に関しては、欧州、アメリカ、中国で異なるアプローチが取られているようですが、日本ではどのようになっていくと考えられていますか?
 
岸本:おっしゃるとおり、データ管理に関しては、地域ごとに大きな違いがあります。欧州では「個人のデータは完全に自己管理されるべきだ」という自己主権的な考え方が強いです。一方で、アメリカでは「市場の力に基づいて企業がデータを管理し、最大化していく」という方針が一般的です。中国では、「国家がデータを強く管理する」というアプローチです。

ユーザーデータの管理主体

高松:日本ではその3つのどれに近くなっていくのでしょうか?
 
岸本:日本は、これらの要素をバランスよく取り入れる形になると思います。欧州のように個人が自分のデータを完全にコントロールするという自己主権的なアプローチは、ちょっと難しいかもしれませんが、ある程度のデータの自己管理は可能になるでしょう。一方で現実的には、企業や政府が一部のデータを管理する必要は出てきます。

高松:日本においてはユーザー自身に加え、企業、自治体、地域などさまざまな管理主体による「グラデーションある管理」になるのですね。そうしたデータ管理のあり方を良い形で実現するためには、何が必要だと思われますか?

岸本:まずは、データを提供するユーザー側が、管理主体に対して、「預けるに足る信頼」を感じられるかどうかが重要です。その信頼は、単に管理主体のコンセプトやブランドイメージによって生まれるものだけではなく、具体的なインセンティブメカニズムが伴う必要があります。また、データ提供者が単なる「供給者」ではなく、ステークホルダーとして管理プロセスに関与できる仕組みが求められます。

高松:なるほど、それはデジタル広告にも言えることかもしれません。今はユーザーが企業にデータ提供をすることで得られるインセンティブが、「サービスの利用」や「広告の最適化」で留まっています。ユーザーに、ステークホルダーとしてデータの管理プロセスにまで入り込んでもらうことで、心地よい新しいユーザー体験が生まれるのではないかと思います。
 
データ管理の難しさは技術の進化とともにますます増していくと思いますが、Web3のコンセプトはどのように解決に貢献できると思いますか?
 
岸本:従来のような中央集権型のネットワークに対して、分散型のネットワークとして語られるWeb3は、具体的な技術というよりも、国家や地域を超えた共通基盤や規格を提供する「運動」や「ナラティブ」としての価値が大きいです。

たとえば、誰でもオープンに参加できるネットワークである「パブリックブロックチェーン」の考え方は、各国の法や国際法の規制がある中で、「最低限の技術的共通基盤」を提供します。こうした共通基盤ができることで、生活者や事業者が多様なデジタルデータを、アセット(資産)として扱える土台が初めて整うわけです。

ただし、その共通基盤の上でどのようなルールを作り、どのように運用するかは、各国や各主体に委ねられます。デジタルデータが「資産」として認識されるためには、「ブロックチェーンなどWeb3の技術によってもたらされる最低限の共通基盤」と「各国・各主体による法的規制」の両輪が必要なのです。

高松:なるほど。「最低限の技術的共通基盤」という表現は分かりやすいです。つまり、ブロックチェーンは特定のシステムを効率化するための「閉じたシステム」としてだけ捉えるのではなく、異なる事業体や国家をつなぐ「エコシステム」としての役割が重要になるわけですね。

岸本:その通りです。ブロックチェーンを個別の閉じたシステムとして捉えるだけでは、その本質的な価値を見逃してしまいます。むしろ、異なるシステム同士を接続するエコシステムとして機能することで、特定のシステムがブロックチェーンと互換性を持つ意味が生まれます。

その上で、人々がどのネットワークに信頼を置くかは、文化や慣習、心理的な要因に依存します。信頼は本質的に主観的なものですが、それゆえに設計の自由度が高いとも言えます。そして、その設計の結果は、「どこに、どのようなデータが集まるのか」といった情報の“流動性”を通じて、客観的に観測することも可能です。

Web3は社会や信頼のあり方を再定義するのか?

高松:流動性が信頼を可視化するというのは大変興味深いです。これまでWeb3の議論は「分散性」ばかりが強調されることが多かったようにも思います。分散には透明性や信頼性といった利点があるとはいえ、集中による効率性や即応性も無視できません。

やはり目的に応じてそれらをどう設計し、使い分けるかというのが重要な視点であり、その設計の多様性が生む流動性は、単なる取引の活発さではなく、信頼のかたちを可視化する手段になり得るのではと思いました。

そしてこの話は単なるデータ市場に留まるものではなく、価値ある情報が資産として扱われる「アセット市場」全体に広がっていく可能性も感じます。 

岸本:まさに、新しい時代のブランドやナラティブは、分散性に頼ることもできますし、集中のリスクを取ることでコストを下げる選択も可能です。それぞれのシステムという選択肢に応じて、流動性が市場の反応として追随するわけですね。

高松:最後に、クルマという観点に戻ります。サービス化していくモビリティと、Web3のもたらすネットワーク社会との関係はどうなっていくでしょうか。

岸本:道を走るクルマの背後には、道路、ガソリンスタンド、町の風景、整備工場や地域の暮らしがあり、無数の人々の手と想いに支えられています。クルマは、実はすでに社会の多くの人たちの関与によって成り立っている「みんなのインフラ」です。

だからこそ、こうしたインフラを、閉じたシステムの中に押し込めるのではなく、多くのステークホルダーによって支えられる「開かれたネットワーク」で管理することが、本来あるべき姿だと考えます。そこにブロックチェーンの技術が活用されることもあり得ます。私たちはそうした自然で誠実なモビリティネットワークの実現を目指しています。

高松:ありがとうございます。どの業界にあっても、ネットワークを構築するにあたって、データの取り扱い、ステークホルダー、参加者へのインセンティブなど、検討すべきことは多々あると感じました。なんにせよユーザーが自分のデータを提供してくれるためにはより信頼される管理主体であることが求められるわけですね。こう考えると、Web3の価値は単に技術的なものにとどまらず、社会的な基盤や信頼のあり方そのものを再定義する可能性を秘めていますね。

岸本:ええ、私はWeb3を「新しい価値や信頼の枠組みを共創する土台そのもの」だと考えています。その意味では、単一のプラットフォームではなく、多様な選択肢を受け入れる柔軟なシステムこそが、これからの時代に求められる姿勢だと思います。

高松:この度は貴重なお話をありがとうございました。

モビリティサービス
電通web3clubでは、Web3の領域で何か施策を実施したい、NFTやFTを活用してコミュニケーションやソリューションを開発したい。そういったクライアントと並走できるよう引き続き取り組んでいきます。この記事を読んで、ご興味を持たれた方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

Email:web3club@dentsu.co.jp

 

X